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by norikoosumi
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第三話:脳の成熟と感受性期

(「安全と健康」3月号掲載「正しく知ろう!脳について」)

はじめに
 前回は脳がどのように構築されるかについて紹介した。しかしながら、脳は生まれたときに完成しているのではなく、その後も環境からの影響によりダイナミックに変化していく。

シナプスの“刈り込み”
 脳の中に配線された神経細胞の軸索は、適切な相手の神経細胞と結合することによってはじめて「神経回路」として機能できるようになる。この結合部は「シナプス」と呼ばれ、1つの神経細胞あたり1000〜10000個も形成される。生まれたばかりの赤ちゃんの脳では、樹状突起と呼ばれる入力部分が、まさに木の枝のように多数張りだしているのだが、やがてこの突起は必要に応じて「刈り込まれる」ことになる。これはどういうことかというと、まず多数の樹状突起上において多数の神経細胞との間に仮のシナプスがつくられる。シナプスは神経細胞と神経細胞の刺激の伝達部であり、神経回路が働くと、その刺激によって結合が強固なものになる。そうすると、働きの弱いシナプスが淘汰されていく。つまり、神経細胞の生き残りだけでなく、シナプスにも生存競争があり、淘汰されたシナプスがあった樹状突起が退化していくという訳である。




神経回路の高速化:髄鞘(ずいしょう)形成
 もう一つ、赤ちゃんの脳の中では、神経回路をより高速化するという大事なイベントが起きている。第一話で話したように、神経のケーブルの部分(神経軸索)の多くは、素早い神経伝達を行うために、髄鞘という絶縁体で被われるようになる。髄鞘は、神経細胞の働きを助けるグリア細胞の仲間である「オリゴデンドロサイト」の細胞の一部が神経細胞の軸索をグルグル巻きにして形成される。軸索を輪切りにした状態を電子顕微鏡で観察すると、オリゴデンドロサイトの細胞膜が何重にも重なって、ちょうどバウムクーヘンのように見える。神経細胞内の興奮の伝達は基本的にイオンの出入りによる電気的な信号なので、このような絶縁体形成によって、神経伝達のスピードが自転車程度から新幹線並に高速化される。もちろん、超高速な神経伝達が私たちの高度な神経機能の基盤であることは言うまでもない。

部位によって異なる脳の成熟
 このようなシナプスの刈り込みや髄鞘形成は、脳全体でいっせいに起きるというよりは、部位によって時期が異なっている。例えば、聴覚や視覚に関わる部分の方が、運動系の制御をする部分よりも成熟が早く、意志決定等に関わる前頭葉ではさらに遅い。重要なのは、このような脳の成熟は、学習や経験によって生じる神経活動の結果として進んでいくということである。つまり、お母さんのお腹の中で発生している時期よりも、子供が育つ環境からの影響が非常に大きい。ちなみに、「三歳児神話」が膾炙されることがあるが、最近の脳画像研究からは、脳の成長は三歳で終わるのではなく、思春期の間にも脳はまだまだ変化していることが分かってきた。

脳の感受性期
 このような脳の成熟過程の中で、「感受性期」と呼ばれる重要な時期があることが知られている。感受性期は「臨界期」と呼ばれることもあり、その時期を過ぎると学習の定着が著しく低下する。ノーベル賞学者のヒューベルとヴィーゼルが行った有名な実験は、ネコの視覚をモデルにしたものであり、生まれたばかりの子猫を、片目を見えないようにして数ヶ月間育てると、塞いだ方の目からの入力刺激が無い状態が続くことにより、結果として視覚認知機能が損なわれてしまった。しかも、その後、目が見えるようにしてやっても、そのネコの視覚機能は回復しなかった。感受性期の間には、環境からの刺激に対応して神経活動が生じることにより、シナプスの強化や刈り込みが盛んに行われ、髄鞘形成によって固定化していくものと考えられている。感受性期の時期は神経機能によって異なり、例えば、言語学習では聞き分ける能力の感受性期の方が発話する能力よりも早く閉じる。適切な時期に良い刺激を与えることが、子供の脳の健やかな発達にとって非常に重要である。ただし、現時点の脳神経科学では、どのような学習の感受性期がいつ頃なのかについては、まだ不明な点が多い。

 「三つ子の魂百まで」と言われるが、脳はそれ以降も環境に順応して変化していく。ここでは紙幅もないので触れないが、環境への順応には遺伝子が働いているのであって、「遺伝か、環境か」ではなく「遺伝も、環境も」健やかな脳の発生・発達・維持に重要である。次回は記憶と学習との関係について紹介する。
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by norikoosumi | 2010-08-05 13:41 | 正しく知ろう!脳について
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