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by norikoosumi
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第八話 自閉症と脳の発達障害

はじめに
 第二次世界大戦後、出生率は低下し、子どもたちが減ってきているにもかかわらず、初等教育において学習障害児などなんらかの支援を必要とする児童・生徒は毎年1万人も増加し、就学児童の5%程度にのぼる。このような子どもたちには脳の発達障害を伴う者が多く、中でも自閉症や注意欠陥多動性障害(注1)と診断される子どもが最も多い。本稿では紙幅の関係もあり、自閉症を取り上げる。




自閉症の三大徴候
 自閉症には3つの特徴的な症状がある。まず、一人で遊ぶのが好きであったり、他人と目を合わさないなどの社会性や対人相互反応の障害が認められる。また、質問の意味は分かっていても、それに答えられない、オウム返しに答えるなどの言葉や意思伝達の障害がある。さらに、ずっと同じ遊びをしたり、手をひらひらと動かし続けたりといったように、興味が限定的で反復行為が多い。このような三大徴候のほかにも、「音に過敏である」、「皮膚感覚が過敏であったり逆に鈍かったりする」、「睡眠障害がある」、などの症状を伴う場合もある。知的障害がある場合も、そうでない場合もある。
一方で、三大徴候の3つがすべて見られない場合には、自閉症スペクトラム(ASD)と呼ばれ、とくに、知的障害がない「アスペルガー症候群」「サヴァン症候群」などには、音楽や絵画などに素晴らしい才能を発揮する方もいる。

自閉症の発症率
 自閉症の発症は1,000人に2〜5人とされ、4:1で明らかに男児に多い。3歳ごろまでに、上記のような症状が顕著になって診断されることが多いが、最近の研究では1歳の時点ですでに脳の発達に何らかの障害を示す徴候があると考えられている。双子を使った研究から、自閉症には遺伝的要因が大きくかかわることが知られている。一卵性双生児の一方が自閉症もしくはASDの場合に、もう一方のきょうだいが自閉症やASDを発症する確率は90%に上る。また、父親の年齢との相関性が報告されており、年齢が上がると自閉症児の生まれる確率が高くなる。

シナプスの異常が関与
 このように、自閉症には遺伝的な関与が大きいことから、自閉症発症にかかわる遺伝子群の探索が世界中で進められている。そのような自閉症関連遺伝子のリストは数十にも上るが、その中でもっとも中心的と考えられているのは、神経細胞同士の結合、すなわち「シナプス」の形成とその機能にかかわるタンパク質をつくるために必要な情報を持つ遺伝子である。このようなことから、自閉症はシナプスの異常によって生じる「シナプス病」であるという概念も提唱されている。つまり、シナプスにおける神経伝達の軽微な異常によって、自閉症やASDにみられる精神発達に障害が引き起こされると考えられている。

自閉症の治療に向けて
 自閉症の症状を示す病気の一つに「脆弱(ぜいじゃく)性X症候群」と言われるものがある。これは、X染色体(注2)上にある遺伝子の一つが働かなくなることによって引き起こされる障害で、問題となる遺伝子はシナプスの機能にかかわる。このことから、脆弱性X症候群では神経伝達にかかわるグルタミン酸受容体の機能が亢進しているという仮説が立てられた。そこで、この病態モデル動物として、当該遺伝子を「ノックアウト」(ある遺伝子を欠損もしくは変異させて、機能しないようにすること)したマウスが作製され、ノックアウトマウスではグルタミン酸受容体の機能が亢進することが再現された。このノックアウトマウスに対して、グルタミン酸受容体の機能を低下させる薬物(アンタゴニストと呼ぶ)を投与すると、ノックアウトマウスにおいてみられる症状のいくつかが改善されることが示された。このような知見をもとに、米国では自閉症患者に対し、グルタミン酸受容体のアンタゴニストを用いた臨床治験が進行中である。
 もう一つ別の例として、やはり稀(まれ)な病気であるが、ある遺伝子の異常(変異)により発症する結節性硬化症(注3)と呼ばれるものがあり、その患者の約半数が自閉症の症状を呈することから、結節性硬化症の原因遺伝子をの変異させたマウスも、自閉症の一つのモデルとして考えられている。この場合は、やはりシナプスの機能にかかわる因子に対する阻害剤として、ラパマイシンという薬剤を投与することにより、モデルマウスの学習障害等の症状を改善することができた。

早期発見と介入の必要性
 以上のように、適切なモデル動物を作製し、それを用いることにより、自閉症の病態を軽減する治療薬の開発を進めることが可能である。自閉症の症状は多岐に渡ることから、今後より多様なモデル動物を作っていく必要があるだろう。一見、症状は同じように見えても、本当の原因となる遺伝的背景が異なる場合には、有効な薬物が異なる可能性は高い。また、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のロバースLovaas教授らによる「応用行動分析」という認知療法的な介入をなるべく早期に開始することが有効であることも知られている。いずれにせよ、脳の可塑(かそ)性が高いうちに治療介入を開始できるようにすべく、早期の診断法の確立も求められている。

次回は、脳の男女差について解説する。

注1)注意欠陥多動性障害:周りに注意を払うことができず、また衝動的な行動をおこしやすい、あるいは落ち着かない行動を示す疾患

注2)性別の決定に関与する性染色体の一つで、女性は同型同大の2個のX染色体をもち、男性は1個をもつ

注3)全身に過誤腫とよばれる良性の腫瘍ができる病気
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by norikoosumi | 2012-10-24 09:53 | 正しく知ろう!脳について
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