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by norikoosumi
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第十話 脳と睡眠

はじめに
 『寝る子は育つ』といわれ、『睡眠不足はお肌の大敵』とも知られているが、脳にとっても睡眠は非常に大切である。夜更かしをした翌日は頭が冴えない、という短期的なレベル以外でも、良い睡眠を取ることが脳の健康には欠かせない。




睡眠のしくみ
 地球上の生物は昼夜リズムの元に進化してきた。動物には夜行性のものもいるが、昼間に活動する動物は夜に睡眠をとり、体温を下げたり、代謝を減らしたり、血圧を下げたりすることによって体を休めつつ、成長を促したり修復を行ったりしている。
 睡眠をとっているときには脳も休んでいるかというと、実は脳波の活動を調べてみると種々の段階があることが分かる。しっかりと起きているとき、すなわち覚醒段階では、眼を開けているときには13Hzより高い周波数のβ波が、眼を閉じてリラックスしているときには8〜13Hzのα波が出ている。入眠時には、α波が減り、4〜8Hzのθ(シータ)波が認められるようになる。入眠時より眠りが深くなると、一時的に振幅の小さい脳波が出現し、中等度の深さの睡眠まで進むと4Hz以下のδ(デルタ)波が現れるようになり、さらに深い睡眠ではδ波が50%以上となる。このような睡眠時には、脳はしっかりと休んでいるのに対し、筋肉は活動している(ノンレム睡眠)。さらに眠りが進んで覚醒の準備に入るときには、体の筋肉はしっかり休んでいるのに、脳はむしろ起きているような状態になる。このときに、特徴的な眼球の急速な動き(rapid eye movement; REM(レム))が生じることから、この段階の睡眠はレム睡眠と呼ばれる。
一晩の眠りの中では、このような睡眠段階が90〜120分周期で繰り返される。ノンレム睡眠の間には、血圧、脈拍、呼吸の低下が見られ、成長ホルモンが分泌される。レム睡眠時には、呼吸や脈拍は不規則になり、夢を見ることが多い。また、筋肉の緊張が低下するために体の力が抜けた状態になって、「金縛り」にあったように体が動かない状態の夢となることもある。新生児はレム睡眠が多く、3歳ごろまでに大人の睡眠パターンが確立するようになる。

なぜ夢を見るのか?
 上記のように、レム睡眠時はノンレム睡眠時よりも脳の活動性が上がって夢を見やすくなっている。なぜ夢を見るのかについて、これまでもさまざまな研究者が仮説を提唱してきたが、DNAの二重らせん構造の発見によりワトソンとともにノーベル賞を受賞したクリックの「忘れるために夢を見る」という仮説を取り上げよう。
 第一話(2010年1月号)で取り上げたように、ヒトの脳には多数の神経細胞が存在し、それらがシナプス結合することによって非常に複雑な神経回路網ができあがっている。脳が活動している間、膨大な入力情報を処理するのには、かなりの負担がかかっている。この負荷が大きすぎると神経回路網が混乱し、誤った情報が発生しやすくなる。また、覚醒中に入力された情報のすべてが有用とは限らない。そこで脳は、不要な情報を取り除いて負荷を軽くするとともに、神経回路網の中にある混乱した情報や誤った情報を消去する作業が必要となる。すなわち、夢は記憶から消去された情報が素材となって現れたものであるという。
 この仮説は、計算科学の理論の影響を受けている。コンピュータ・シミュレーションでは、その精度を上げるために、余分な情報やプログラムのバグを除去したり修正したりする作業が繰り返し行われ、これを逆学習という。つまり、クリックらの仮説において、神経回路網の余分な情報・誤った情報を除去する作業は、この逆学習に相当する。このような仮説は、現時点では神経生物学的には証明されていないが、今後の研究の進展に興味が持たれる。

神経新生にとっての睡眠の重要性
 第五話(5月号)で、大人になっても海馬などにおいては神経幹細胞が存在しており、新たに神経細胞が生まれること(神経新生)を紹介した。実は、神経新生にも昼夜リズムがあることや、断眠させると神経新生が減少することが、齧歯(げっし)類を用いた研究によって報告された。また、睡眠物質の一種であるプロスタグランジンD2は、断眠させると血中濃度が高くなることが知られているが、培養神経幹細胞の増殖を抑制する作用があることも分かった。睡眠は神経新生の調節に重要な働きをしているといえる。すなわち、睡眠不足になると皮膚の幹細胞の働きも悪くなるのと同様に、脳の中の神経幹細胞にとっても睡眠不足は大敵なのである。
 
心の病と睡眠
 統合失調症やうつ病、あるいは認知症などの患者では、夜に眠れない、寝ても夜中に何度も起きてしまうなど、睡眠障害を示すことが多いことが知られている。逆に、睡眠障害に陥ることがきっかけとなって、心の病を発症してしまう場合もある。必要な睡眠時間は人によって多様であり、3時間でも平気な人もいれば、9時間くらい必要という人もいる。統計的には7時間あたりの睡眠時間の集団においてもっとも寿命が長いというデータがある。上記の睡眠サイクルの長さは個人個人で異なるが、覚醒レベルが高くなったタイミングで起床できると目覚めがすっきりする。生活リズムを整えて良い睡眠を取ることが脳の健康にとって必須といえる。

次回は、脳と運動の関係について解説する。
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by norikoosumi | 2012-10-24 09:58 | 正しく知ろう!脳について
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