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by norikoosumi
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第九話 脳の男女差

はじめに
 『話を聞かない男、地図が読めない女』という本が全世界で600万部の超ベストセラーになった背景には、男女の行動パターンには差があるという暗黙の認識があるからだろう。では、そのような行動の差は、どのような脳の働き方の違いに基づくのであろうか。あるいは、そもそも男女の脳には違いがあるのだろうか。




脳のつくりの男女差
 平均的に男性の身体の方が女性よりも大きいように、頭の大きさにも差があり、結果として、男性の脳は平均値として約1,450g、女性はこれより100〜200g程度軽い。ただし、男性の脳の方が重いから神経細胞の数も多いかというと、そう単純ではない。なぜなら、脳画像で調べると、男性は「白質」(神経細胞から伸びる軸索というケーブルの部分)の割合が多く、女性は「灰白質」(神経細胞体および樹状突起(本誌1月号参照))の割合が多いのである。また、男性は脳脊髄(せきずい)液で満たされている脳室の割合も多い。つまり、女性の脳の方がコンパクトに神経細胞が詰まっている可能性がある。
 脳の部位を見ると、男女の違いが認められる。脳の左右差についてみると、男性は左脳(言語分析統合力に深く関係)で灰白質の割合が高く、右脳(空間認知能力に深く関係)で脳室の割合が大きいが、女性では左右での偏りは著しくない。灰白質は脳の中で行われる情報処理そのものを行うハードウエアであり、白質は情報処理の連絡に働くので、女性はハードウエアの割合を高くして効率良く詰め込んでいるといえる。
 一方、左右の大脳半球をつなぐ神経線維の束である「脳梁(のうりょう)」という部分には、興味深い男女差がある。女性では前述のように全体的には白質が少ないのだが、白質の中では相対的に脳梁は太く、膨らんでいる部分がある。男性では脳梁の中部断面が大きいが、女性では後部の断面が大きいことが知られている。
 さらに、脳の発達の仕方にも男女差がある。一般的に、灰白質はある厚みに達した後は徐々に薄くなっていく(シナプスの刈り込み現象(3月号参照))のだが、男性よりも女性の方がそのピークに達する傾向が早く認められる。例えば、視覚に関係する後頭部の灰白質では、女性は13歳でピークに達するのに対し、男性では22歳でもまだピークに達していないという報告がある。白質は年齢とともに徐々に増加していくが、男性の方がその増加傾向が強い。

認知機能の男女差
 冒頭に掲げた『話を聞かない男、地図が読めない女』という本のタイトルは、男女の認知機能の質的な違いを強調したものである。個人差はあるが、一般に、男性の方が空間認知力に優れている。これは「心的回転課題」といって、例えば、積み木の図面を組み合わせて三次元構造を作る場合に、図形が単に回転させたものと同じかどうか、回転させただけでなく鏡像対称的に互いに同じであるかどうかなどを判断するテストにおいて、男性の方が優位であることから示される。一方、女性は男性よりも言語能力に優れている。ただし、語彙(ごい)そのものや読解力での差ではなく、例えば、指定された文字から始まる言葉を列挙するというような、言語の流暢さを調べる課題において、女性の得点の方が高い傾向が認められる。
 このような認知力の違いは、上述した脳のつくりの違いと、ある程度は相関するものと考えられている。例えば、男性では全体的に白質の割合が多く、心的回転課題等を行う際に行う高速処理に適していることがうかがえる。また、言語処理を2つの大脳半球間で行うのには脳梁後部が関係していると考えられ、女性において脳の左右差が少ないことや、脳梁後部が発達していることが、その高い言語認識能力に関係すると思われる。

脳の生理学的な性差
 脳の機能を非侵襲的(注1)に調べることが可能になり、種々の脳活動が解析できるようになってきた。その結果、男性に比べて女性は安静時の脳血流量が多いことが分かった。今のところ、脳血流量は脳の中での神経活動と正の相関を示すものと考えられているので、女性はアイドリング時でも活動性が高いといえる。また、興味深いことに、女性では(苦手な)空間認知作業を行う際に、両側の脳をフル回転して使い(両側大脳半球において血流増加)、頭頂部や前頭前野部まで動員するのに対し、男性では海馬に依存して自動的な処理を行っている(血流量の増加は多くない)らしい。
 一方、安静時の糖代謝率は男女であまり違いがないが、代謝活性の認められる領域には性差がある。男性では、運動にかかわる小脳や、辺縁系(注2)において高い代謝活性を示すのに対し、女性では言語認知領域に近い帯状回(注3)での代謝活性が高い。また、脳の形態の場合と同様に、女性では糖代謝率の左右差が少ない。脳血流量は糖代謝率と関係し、女性は安静時脳血流量が多いために、脳組織の寿命を長らえることができることによって長生きであることと関係している可能性がある。
 脳内の分子レベルの動きを可視化する分子イメージングを用いた男女の差を示すデータはまだ少ないが、ドパミン(注4)・トランスポーターという指標を用いることにより、女性では言語認知作業中に高いドパミン活性を示し、これが学習成績と相関することが報告された。
 
脳の男女差の意味するところ
 平均的に言えば、男性の方が空間認知力にすぐれ、女性は言語統合力が高いとはいえ、個人差も著しい。また、種々の課題を用いた認知機能の測定値は、学習によって伸ばすことが可能である。異なる脳の使い方をする男女がともに協力することによって、創造的な活動が営まれると筆者は信じている。

次回は、脳と睡眠の関係について解説する。

注1)非侵襲的:痛みや出血などを伴わないこと
注2)辺縁系:大脳半球の内側面にある古い皮質の総称
注3)帯状回:大脳の内側面において、脳梁に沿って前後方向に走る脳回(脳のしわの隆起した部分)。
注4)ドパミン:神経伝達物質の1種で、生体内で合成されるアドレナリン・ノルアドレナリンの前駆物質でもある
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by norikoosumi | 2012-10-24 09:55 | 正しく知ろう!脳について
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