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by norikoosumi
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なぜ日本人女性PIには子どもが 少ないのか? 〜生物学的・文化的考察〜(細胞工学2012年5月号)

はじめに
細胞工学2012年1月号の連載「こんどうしげるの生命科学の明日はどっちだ!?」に意見を寄せてほしいと言われ駄文をしたためたのだが,「どうせなら,きちんとした数字をもとに,もっと長いものが書きたい」などと言ってしまった(言うときには常にその必然性があると信じている)ために,締め切りになって後悔している,というのは毎度のパターン.今回のエッセイと次号と合わせて三部作として読んでいただければ幸いである。
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子どもの理想の数を達成できない理由(複数回答)
第2回バイオ系専門職における男女共同参画実態の大規模調査の分析結果(日本分子生物学会,2009)(PDF)より転載



女性研究者の割合
平成23年版の男女共同参画白書1)によれば,大学への進学率自体は男子56.4%,女子56.0%(ただし短大を含む)と大きな差はないが,その分野に大きな偏りがある.人文科学分野においては全学生の66.5%が女子学生であるのに対し,工学分野では10.9%となっている.生命科学系のデータは手元にないが,両者の中間にあることは間違いない.大学院に進学する割合は理系のほうが高いので,結果として,我が国の研究者における女性研究者の占める割合は平成22年3月31日の時点で13.6%にとどまっており,お隣の韓国がさらに伸びて14.9%となったことにより水をあけられた格好になっている(OECDなどの諸外国で最下位).他の職種でも同様だが,大学や研究所などの研究機関において,職位が上がるにつれて女性の割合は少なくなる.平成22年度の文科省学校調査のデータを孫引きすると,いわゆる教授クラスで12.5%である……と,まぁ,ここまでの前フリはある程度,皆さんご存知だろう.
職位が上がるほど女性が少なくなる理由として最も大きいのは,(「出世なんてバカバカしいことはやってられないわ!」ということもあろうが)何より,出産・育児のハードルを越えてキャリアパスを続ける女性が男性より少ないからであると,説明されることが多い.だが,これは本当なのだろうか? 私にはこの現象に日本の社会のバイアスが大きくかかっているように思えるので,今回はこの点について考察してみたい.

生命科学系女性研究者の子どもの数
男女共同参画学協会連絡会という,やたらカタイ名前の組織があり,ここでは理系の学会・協会の男女共同参画に関する諸問題について情報交換と議論が行われている.数年に一度,大規模なアンケート調査を行っており,その結果はホームページに掲載されている2).一口に理系といっても,理学系,工学系と生命科学系には種々の温度差がある.そこで,連絡会のデータを元に日本分子生物学会の男女共同参画委員会では独自の分析を行った.平成19年に行われた第2回目の調査の分析は「第2回バイオ系専門職における男女共同参画実態の大規模調査の分析結果」3)としてホームページからPDFをダウンロードできる.これによると,日本分子生物学会に所属する会員で2768人がアンケートに回答し,そのうち男性は65.8%,女性は34.2%であった.年代別では男女ともに30代の回答が最も多いので,子どもの数の調査母体としてはそこそこ適切であると考えられる.
さて,ここからの分析であるが,回答者の中で配偶者ありは男性65%に対して女性が51%であり,研究活動を行う女性が配偶者を持ちにくい(持ちたくない?)傾向がうかがわれる.さらに,このような回答集団の中で子どもの人数を答えてもらうと,女性の70%が「子どもなし」と回答している.この割合は男性では52%であるから,非常に男女差がある.第一子をもうけた歳は不明なのだが,初産が学位取得後〜30代前半だとキャリア形成に支障が出ると考えているからかもしれないし,40代以上になると生物学的・医学的には高齢出産の問題がある.このことは第二子を持つかどうかにも影響する.もっと問題なのは,生涯における理想の子どもの数を回答してもらうと,男女ともに「2人」のところにピークが来て,ほぼ5割の人が「やっぱり子どもは2人ほしいよね」と思っているのだが,「理想の子どもの数は達成可能か?」という問いに対して,「はい」と答えた人は男性で約半数,女性は37%程度,逆に悲観的な見通しの女性は3分の2を超えていた.

なぜ理想の子どもの数を実現できないのか?
このようなネガティブな見通しは,女性では出産適齢期との関係から,34〜39歳では8割にも上っている.男性でも40〜54歳においては7割近くが(配偶者の年齢を考えると,もはや?)達成できないと考えており,このような回答は特に任期付常勤職や非常勤職に多い.
さらに詳しい分析として,「理想の子どもの数を実現できない理由」を複数選択回答してもらったところ,見事に男女差が現れた(図1).男性では「経済上」の理由が30%と最も多く,次が「職の安定性(23%)」であるのに対し,女性では「育児とキャリア形成の両立」が55%と圧倒的に多い.また,女性では「職場の理解(27%)」や「配偶者の協力(17.6%)」という理由も多いが,この2つを挙げた男性はそれぞれ5%と4%しかいない.ただし,「育児とキャリア形成の両立」については21%の男性も回答していたので,分子生物学会の男性会員にはそれなりに「イクメン」がいると思われる.ちなみに,この回答集団の中で,男性の回答者の25%は専業主婦の配偶者を有しており,男性回答者の年収分布のモード値は600万円未満である.一方,女性研究者の配偶者の年収は600万〜700万円のところにモード値があり,年収ゼロの旦那を養っている女性は976名の回答者のうち7名しかいなかった.

子育ての負担
上記のような子どもの数の少なさの原因に「育児の負担」があることは間違いない.このアンケート調査分析において,職場での仕事時間は,男性のモード値が週70時間未満,女性は仕事時間が週60時間未満となっており,男性よりも女性の勤務時間が短い傾向がある.ただし,配偶者がいなければ男女にほとんど差はないが,配偶者がいると,女性の勤務時間は男性と比較して週10〜15時間短くなり,子どもがいるとさらに週10時間程度短縮されている.一方,1日あたりの家事・育児・介護時間についての回答は,男性は1時間未満から2時間未満で,子どものありなしでほとんど差がないのに対して,女性は子どもがいるとモード値が4時間未満にもなる(図2).年齢別の分析から,女性の仕事時間の短縮傾向が45〜50歳ごろに解消することから,子育て期の女性にとって時間的なハンディがあり,「育児とキャリア形成の両立」が難しいことによって「理想の子どもの数」を達成できないと考えることにつながっていると考えられる.
このような状況において,「実力は業績で判断するのが当然.女性だからといって甘くするのは学術・科学の世界にふさわしくない」という主張は,何か間違っていないだろうか?家事や育児に拘束されない(放棄した?)男性もしくは女性が学術・科学の世界にふさわしいという考え方は,科学者が貴族の副業(趣味?)ではなく職業の1つになった時代には似つかわしくない(注:もちろん筆者は女性なら皆,子どもを持たなければならない,とまで主張しているわけではない.現代においてそれは選択肢の1つであると思う).

PIになりたいか?
同アンケート調査では「将来の望ましい職」についても質問している.回答は男女ともに「大学等で研究に従事する」ことであった.ただし,男性では6割が研究室を主宰することを理想と考えているのに対して,女性ではこの比率が3割以下にとどまっており,PIでなくてもよいから,とにかく大学や企業で研究に従事することを望む人が5割に達した.この傾向は日常的にも感じられるものであり,「女性は偉くなりたくないんだよね」と言ってはばからない男性も多い.だが,キャリアパスの途中の育児期に十分な時間を自分のキャリアのためにはさけないと感じる女性研究者は,「別にPIになんてなりたくないし……」と反応するのも心理的にはもっともなことである.イソップ寓話の「すっぱい葡萄」を思い出してほしい.さらに,もしかすると女性は「種をつなぐ性」の主体であることから,リスクを冒さない,無駄なエネルギーを費やすようなことはしない傾向があるのかもしれない.

でもやっぱり,日本は特殊?
残念ながら,この調査と比較しうる諸外国のデータを持っていないので,話が一気にサイエンティスト的でなくなるのが辛いのだが,私の知る限り,欧米も他のアジア諸国でも,女性研究者には平均的には二人程度の子どもがいる方が多い.その理由が宗教的なバックグラウンドにあるのか,社会の仕組みなのか,十分な分析はできないのだが,1つだけ確実に言えるのは,欧米では男性の育児参加が進んでいるということだ.すでに20年前の時点において,アメリカの友人のラボを訪ねた折に「今日は僕が子どもをピックアップする日だから,一緒にデイケアに寄ってね」と言われて(当時は)びっくりした.国際会議に出席すると,乳母車を押しながら会場を歩く男性研究者もそこそこ見かける.日本では「お子さんが熱を出しました」という連絡が保育園から入ったら,かなりの場合にお母さんが迎えに行くだろう.子育て期は皆それぞれが通る道なのだから,女性でも男性でも周囲が温かく見守ることが大切だ.お父さんだって,もっと子どもと触れ合いたいのではないか? 子どもが可愛いうちなんて短いのだから.
一方,例えばシンガポールや香港の場合には,フィリピン人のメイドやシッターを相対的に安い人件費で雇用することが可能であるために,女性PIともなれば子育てのかなりの部分を外注している.このあたりも,自分の子どもの主たる養育者が日本語をしゃべることができないような状況は受け入れ難いという,日本人のメンタリティーとの兼ね合いがある.昔なら祖父母に面倒をみてもらうことも可能であったかもしれないが,核家族化が進んだ現在ではさらに厳しい環境と言える.

おわりに
以上,「日本には女性PIが少ない×女性研究者の子どもの数が少ない=日本人女性PIには子どもが少ない」ということについて,データに基づき考察した.やはり「育児とキャリアの両立」のところに大きな問題があるが,そこには日本独自の背景がある.日本の社会は種々の面でガラパゴス化しているので,問題は育児だけではないのだが,研究と心中しなければPIになれない,研究者自身が次世代となる子どもを育てることが困難な状況では科学に明るい未来はない.(なお,この日本分子生物学会の分析結果はポスドク問題なども取り上げているので,ぜひ読まれたい.次回はダイバーシティーの点に関して,さらにガラパゴスな日本の状況を論じるつもりである.)

文献
1)平成23年版男女共同参画白書(内閣府)
2)平成19年度「科学技術系専門職における男女共同参画実態の大規模調査」(男女共同参画学協会連絡会,2008)
3)第2回バイオ系専門職における男女共同参画実態の大規模調査の分析結果(日本分子生物学会,2009)

※細胞工学2012年5月号記事よりテキスト転載
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by norikoosumi | 2012-10-26 11:49 | その他
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